乳酸はこれまで疲労物質の代表のように言われ嫌われてきました。
走って筋肉が疲れると「乳酸が溜まったからだ」とか
マッサージで「たまった乳酸を除去しましょう!」とか
乳酸さえ除去できれば疲労回復できるかのように言われてきました。
です乳酸は疲労の原因ではありません。以前から科学的にもわかっていた事なのですが、以前の常識がなかなか一般レベルで変わらないのが実際です。
人間が身体を動かすという事は主に糖質と脂質を分解して、細胞内のミトコンドリアという器官で酸化し、それにより出来たATPというエネルギーを使います。
このうち乳酸と関係があるのが糖質です。
特に高強度の運動をする時、糖がメインのエネルギー源になります(もちろん脂肪も使われていますが割合の問題です)。
乳酸は糖が分解される途中に出来ます。
糖質は分解されていく過程でピルビン酸という物質になり、その後ミトコンドリアに取り込まれます。
安静時は糖の分解も少ないので大丈夫ですが、強度が高い運動時は糖がめちゃくちゃ沢山分解されます。
出もミトコンドリア内で処理できる量は限られているため、糖はピルビン酸から一時的に乳酸になります。
このため高い強度の運動をすると血中の乳酸濃度が高くなります。
短距離走などの後に乳酸濃度を測ると高い訳ですが、だからと言って疲労物質というわけではありません。
短距離走が糖を沢山分解する運動だからミトコンドリアでの処理が間に合わず、結果的に血中の乳酸濃度が高くなるのです。
血液中に出た乳酸は使いやすいエネルギー源として筋肉に取り込まれ、再びピルビン酸に戻りエネルギーになります。
むしろ糖よりも分解が進んでいるので使いやすいのです。
主に速筋繊維(パワー系筋肉)で乳酸が作られ、遅筋繊維(持久系筋肉)で使われるようです。
だからマラソンなどの持久系種目では運動中に乳酸がエネルギー源としてジャンジャン使われているわけです。
ちなみに体内にはグリコーゲンとして糖が貯蓄されていますが、約2000キロカロリーしかありません。
なので、フルマラソンなどを走るには足りないくらいなのです。
調子に乗ってスパート(高強度)を何度もかけると糖が無くなり走れなくなります。
マラソンは「いかに糖を温存して走るか!」の競技です。トレーニングにより強くなることで脂肪を効率よく使えるようになり糖の消費を抑えられます。
反対に10キロ走などは「いかに糖を使いきるか!」が勝負を分けます。
効率の良い糖を残してレースを終わるのはもったいないのです。
マラソンなどの後半に血中の乳酸濃度を測ると低い値です。
糖(グリコーゲン)が減っているので乳酸も出来にくいのですね。
マラソン後半といえば疲労困憊、筋肉も限界ですよね!でも乳酸濃度は低い・・・
この事からも疲労物質ではない事がわかります。
高強度でも運動後数時間もすれば乳酸濃度は正常になります。
翌日の筋肉痛などは乳酸とは全く関係ないのですね。
では疲労の原因はなんなのか?
難しい問題ですが。。。
の微細な損傷、筋肉内のカリウムが漏れ出して筋の収縮を妨げる、リン酸などの増加、グリコーゲン減少、二酸化炭素の増加による呼吸のつらさ、などなど色々なことがトータルとして疲労を感じるのではないでしょうか。
ちなみに運動強度により乳酸濃度が変化するため、血中の乳酸濃度を測定することが疲労の指標にはなります。
それはトレーニングの指標にもなるので、様々な競技で乳酸測定によるトレーニングが行われています。
また最近の研究では乳酸は疲労を回復させる効果もある、乳酸がミトコンドリアを増やす、筋肉の傷を修復したり毛細血管を増やす・・・という事もだんだんわかって来たようです。
このあたりは今後楽しみな分野ですね。
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